2017-07-07から1日間の記事一覧

スイートレス・シュガー (春壱)

ある雪の日のことです。中学生の太田くんは、喫茶店で同じクラスの佐藤さんと向かい合わせに座っていました。太田くんが勇気を振り絞って呼び出したのです。しかし、そこで勇気を使い果たしてしまったようで、肝心な時に何も言えないでいるのでした。佐藤さ…

彼岸花 (藤猫くする)

K青年は、一面の彼岸花の中を、さくさくと歩いていました。 足元はどうやら、細かい砂利です。左右には、見渡す限りに赤い花が広がって、そこここで風に揺れてざわざわと音をたてます。その微かでとめどない音と、砂利を踏む自分の足音以外は、何も聞こえな…

美しき霊が消える前の跡 (雪野灯)

美しき霊が消える前 夕焼けに照らされるもの 影法師は延び、沁みが大気を侵す 雨が降り注ぎ、時を暗いままにする 狭間に隠れた蛙は田園で啼くが、 いつかの子供がつけた足跡は見えないだろう 美しき霊よ それは在るはずだった 森に満ちた獣の声が、満月とと…